同じ画角の写真

仲良くなりたいと思っていた人と一緒に焚き火をしたい。だけど急に誘ったら変だろうか、迷惑だろうか、そんなことで3時間悩みあっという間に夕方になる。その子にばったりあったら自然な流れで誘おうと、とりあえずスーパーに買い物へ行く。その子はスーパーにはいなかったが、大きな中秋の名月がちょうど山から見えてきて、思わず駐車場で写真を撮った。

家に帰ると、その子から「刺し身を入手したから食べに来ない?」と連絡が来ていた。こんなことってあるだろうか。会いたいと思ったその日に、向こうから連絡があるとは。冒頭で仲良くなりたいと記しただけあり、日常的に連絡をとっているわけでもないし、そもそも一ヶ月以上会っていない子だ。そんな人から急にご飯のお誘いが来て心がおどった。ただただ仲良くなりたい、友達入門みたいな立ち位置だと思っていたが、タイミングに運命を感じ変に意識し始めてしまう。

彼女の家に着くと、久しぶりに会ったその子はかわいくなっているように見えた。これはいけない。好きになりそうと思い始めるとどんどん好きになってしまうパターンのやつだ、抜け出さなくちゃ、そう思っているときにはもう手遅れなやつだ。恋に恋してしまうやつだ。いけないパターンだとわかっているし、自制もできるようになってきたけど、長い間好きな人ができず渇いていかたら、恋に恋してもいいかと思った。これは結局自制ができていないということなのかもしれない。

他愛もない彼女との会話の中で、「今日は月がよく見えるね」という話題が出た。「月が綺麗だね」だったら少し返答にドギマギしてしまったかもしれないが、ギリギリ回避できた。「さっきスーパーで写真撮ったんよ」と彼女は写真フォルダの中から一枚の写真を見せてくれた。その写真はなんと、同じスーパーの駐車場で撮られた、同じ山から月が顔を出している、同じ時間、同じ画角の写真だった。

「え!俺も全く同じ写真撮ったんだけど!」とすかさずこちらの写真も見せる。「スーパーですれ違ってたかもね」「ほんとだね」とお互いに笑い合う。

お互いに恋人はおらず、恋人を探しているという状況。これは少し状況を動かしたら恋が始まるのもあり得るぞ・・・と何度も脳裏をよぎった。それと同時に、本当に好きなのか、本当に恋をしているのか、そもそも相手はこちらのことなんとも思っていないのではないか、色々と考えてしまいやはりその日の提案はできずに終わった。